前回の続きです。
今回で「我が子を噓つきで見栄っ張りな”ゆでガエル”にしない為に」は最終回です。
「お客様モラトリアム」から抜け出せない”ゆでガエル”
長年の家庭教師経験の中で、親御さんが”何がなんでも”という狂気のような願望を抱いている場合、絶対ではありませんが家庭不和な状態であることが多く、その子どもの精神状態も不安定なことが多かったです。
家庭不和の場合、ほとんどの生徒が成績不振に陥っています。
そして、自信過剰に大言壮語してマウントを取り出したかと思えば、急に悲観的になって卑下しだすなど、思春期を過ぎてからも常に精神が安定しないまま大人になる確率が高いです。
過去に家庭教師で指導していた、ある生徒がまさにそうでした。
幼少のころからほぼネグレクト状態で、親御さんが食事をまともに用意しない為、事あるごとに「お腹が空いた」と言うので、見かねて持っていたお菓子をあげるとむさぼるように食べていました。
冷蔵庫はほとんど空っぽで、冷凍庫にはいつ購入されたのかわからないものや賞味期限が過ぎた食材がパンパンに詰められていました。
(ちなみに勝手に見たわけではありません。生徒に「一緒に食べ物を探してほしい」と依頼され確認しました。)
自宅は新築のタワーマンションでしたが、両親共に仮の別宅があるそうで、用事がある時だけ時々帰宅するとのことでした。
真夏を過ぎようとするまでクーラーは設置せず、電気も子どものいる部屋にポツンと灯っているだけ、という状態でした。
冬の時期は親から「暖房をあまりつけるな」と言われていた為、元々衣替えという概念すら持つことを許されなかった生徒はいつも薄着で、指導するこちらもかなりの厚着をしていかなければなりませんでした。
(コートの類も持っていなかったので、思わず愛用していたモッズコートをプレゼントすると、めちゃくちゃ喜んで着てくれていたのが忘れられません…。)
洗濯も頻繁にしないので、その生徒の着ているものはいつもどことなく垢じみていて、かなり裕福な子弟が通う学校では浮いた存在だったはずです。
担任から再三にわたる呼び出しを受けても、親御さんはほとんど応じたことはないそうです。
それでも、世間一般からは高収入と言われる職業についており、子どもを小学校から私立に通わせ、見晴らしの良い新築のタワーマンションの一室を所有し、高級車・高級時計などを頻繁に買い替えるようなご家庭だったのです。
ここまで極端な例は少ないですが、家庭不和でネグレクトに近い(親がきちんと食事を用意しない、常識の範囲を超える長時間もしくは長期間の不在)状態の場合、親を慕っていた子は寂しさを通り越してだんだん怒りを覚え、早く自立して家を出ることを目指そうとします。
そういう目標を持った子は、指導開始後に声掛けして励ますと学習に力を入れ出します。
ネグレクト、反対に過干渉な状態の生徒ほど、語彙力・思考力が非常に乏しい傾向にありますが、
国語力がついてくることにより、物事を客観的に捉え、自分の考えを表現できるようになります。
そして、支配的な親の欠点に気付きだし、矛盾をつくような発言をし始め、親にとって言うことを聞かない、思い通りにできない、”都合の悪い子”になってしまうのです。
そこで、親の真綿のような兵糧攻めがじわじわと始まります。
暴力こそふるいはしませんが、「家から通える大学、もしくは親の認めた大学でないと学費は出さない」、などという脅し文句を多用するようになります。
“言うことを聞いているうちは美味しい目に合わせてあげる”と、目先の娯楽やお金を与えることで、子どもの反抗心を徐々に削いでいきます。
あるいは、恐怖を覚えるほどしつこく親の言う通りするよう繰り返し言い募ります。
そのうち、最初は反骨心があった子の目がどんどん死んでいきます。
だんだんと学習に身が入らなくなり、現実逃避をして他力本願な言動を繰り返すようになるのです。
そして、堅実に力をつけて自立するよりも、親の用意したぬるま湯につかりながら空虚な夢を追いかけるようになり、美辞麗句を並べるものに惹かれだし、すぐに成果を求めてまっとうな道を進むのを厭うようになります。
家庭環境に問題がある生徒ほど、そうやって成績が確実に向上して自立への一歩を踏み出せそうになっているにも関わらず、家庭教師の指導が途中で終わることがよくありました。
そして、何か問題が起きた時、すぐさま”被害者”気分になって人を糾弾するようになります。
また、そういった人は愛着障害(幼少期の愛着形成に何らかの問題を抱えている状態)を抱えていることが多いために、他人と健全な関係が築くことができません。
例えば、冒頭のネグレクトを受けた生徒は、学校の教師や同級生から「目立ちたがり」「距離感がおかしい」「問題発言・行動が多すぎる」などとずっと指摘されていました。
愛着障害のある人は、”自分にもっと注目してもらいたい・関心を持ってもらいたい”という飢餓感が常にあり、自尊心が満たされていない為、心の隙間を埋めてくれるものを探し続けなければならなくなるのです。
例えば、
となってしまう可能性があります。
この場合の”お客様”とは、言い換えれば”カモ”に過ぎません。
そういう人が、本質的な意味で「自立した大人」になれることはないでしょう。
たとえ中身のない資格・肩書だけを手に入れても、本当の意味で自尊心が満たされていないので、仕事や人間関係において重大な心のトラブルを抱えたままで、気が付けば”ゆでガエル”のような末路を迎えてしまう可能性があるのです。

世間一般で言うところの社会的地位や収入が高く、ネグレクト気味な親御さんに限って子どもに高学歴を望む気がします。
しかし、単純に食事面だけでなく、“心の栄養”が満たされていないのに、学業に専念しようという気になれるわけがありません。
マザー・テレサが「愛の反対は無関心」という言葉を述べていましたが、本当に子どもに関心がない人というのは結構意外と存在します。
そして、いつも首を傾げたくなるのは、子どもが”親から離れて自立”する為に頑張りだすと、それまでほとんど無関心であったにも関わらず、邪魔をしているとしか思えない言動を開始します。
ある生徒の親御さんなどは、長年子どもの世話を親族に任せたきりで、誕生日すら放置してきました。
中学受験のために集団塾に通わせたこともあったようですが、やる気もなくぼんやり席に座っているだけで放置されていた為、成績は常に下位クラスでした。
それでも家庭教師として何年も指導を続けるうちに、本人なりの得意分野を見つけて、将来の夢に向けて頑張ろうとしていました。
ところが、その子が大学入試を迎える頃になると、
「早く医療資格を取って、うちの仕事を手伝いなさい。
そして、将来お前が結婚して子供ができたら、お前とその子と一緒に住もう。」
と、ごく当たり前のことのように親御さんが発言したのです。
(ツッコミ所が多すぎてつい流してしまいそうになりますが、結婚相手の存在はどこにいったんでしょうか……?)
こういう親御さんはきっと我が子に対し、
“自分の手間もお金も時間もできるだけ掛けずに、子どもが周囲に自慢できる・見栄を張れる学歴を手に入れて、ステータスの高い職業についてほしい。
そして、自分が年を取ったり病気になった時は色々世話をしてもらえる距離にいてほしい。”
という、非常に都合の良い願望を抱いているのだと思います。
当然ですが、皆が皆こういう親御さんばかりではありません。
子どもの人格をゆがませるほどの虐待をする人は非常に稀でしょう。
けれど、意識・無意識的に、親は子どもにとって”独裁者”になる恐れがあることを肝に銘じておく必要があるかもしれません。
最後までお読みいただき有難うございました。